Sunday, May 31, 2009

迂闊な月曜日の蝶蒐集家 一頭目 - Butterfly Collector on Careless Monday 01

























いやー、『東のエデン "Eden of the East"』面白いですね。

今回は蝶。
このテーマには『蝶蒐集家の憂鬱』って何の面白みもない仮題を付けてたんですが、途中で本棚にあるジュール・シュペルヴィエル(Jules Supervielle)の『日曜日の青年 "Le Jeune Homme Du Dimanche"』が目に付いたので『日曜日の蝶蒐集家』にし、じゃあいっそのこと二つを併せちゃえと『憂鬱な日曜日の蝶蒐集家』にしてみたんですが、どうも前とあんまり変わらないものになってしまい、放置。よくあることです。

で、『東のエデン』の話になるんですが、ストーリーの中では3ヶ月前に起きた日本の主要都市に向けたミサイル攻撃事件を「迂闊な月曜日」と呼んでいます。いろんな音楽聴いてる方ならここで、「ああ、『暗い日曜日』か」と思ったことでしょう。

『暗い日曜日 "Szomorú vasárnap"』は、シンガーソングライターで、ピアニスト、そして作曲家でもあったハンガリーのシェレシュ・レジェー(Seress Rezső)が作曲をし、シェレシュ・レジェーがピアニストとして働いていたブダペストの"Kispipa Vendéglő (キシュピパ)"というレストランのオーナーであるヤーヴォル・ラースロー(Javor Laszlo)が作詞を担当。1933年に発表されました。ハンガリーを中心に世界中で数百という人がこの曲を聴いて自殺したという話は有名ですので、聞き覚えのある方も多いでしょう。様々な国で放送禁止になったという話とかも。
どうやらこの話はかなり誇張されたものであるらしく、確かにこの曲を聴いて自殺した人はいたそうなのですが、実際にどれ程の人がこの曲が原因で自殺したのかは分かっていないみたいです。

この『暗い日曜日』は1936年にダミア(Damia)のカバーで世界的に知られるようになったことから、シャンソンがオリジナルと思っている人が多いとのこと。ちなみに、このカバーの前の年には映画『ショーボート "Show Boat"』のジョー役や、その政治活動で有名なポール・ロブスン(Paul Robeson)が張りのあるバリトンボイスでカバーしていたりします。
ボクが初めて『暗い日曜日』を聴いたのは、1941年のビリー・ホリデー(Billie Holiday)のカバーででした。その次がディアマンダ・ギャラス(Diamanda Galas)のあの濃いバージョンです。ですから、この曲は女性アーティストが歌う曲、というか、男性アーティストが歌っているバージョンなど想像もしていませんでした。オリジナルバージョンを聴いて、男性の歌声が流れてきた時は意外で少し違和感が。調べてみると、カバーしているのは圧倒的に女性アーティストが多いのですが、上記のポール・ロブスン以外にも男性アーティストがカバーしていることが分かりました。
ビリー・ホリデーのカバーからしばらくこの曲のカバーをする人は現れません(もしかするといたのかもしれませんが)。1957年に、あのフォーキーなスタイルで知られるブルースマン、ジョッシュ・ホワイト(Josh White)がカバーします。すると、翌年にもメル・トーメ(Mel Tormé)、リッキー・ネルソン(Ricky Nelson)と男性アーティストが続けてカバー。それにしてもリッキー・ネルソンはちょっとどうなんだろう?と思い検索してみると、YouTubeに曲が上がってました。う~ん、やはり微妙です。あの声とキャラでこの曲歌っちゃダメですよ。

昔はジャズ畑かシャンソン畑の人たちが『暗い日曜日』をカバーすることがほとんどでした(1968年にジェネシス(Genesis)がカバーしていますが、まあ、それは例外でしょう)。それが変わったのは1979年、アンダーグラウンドの女王リディア・ランチ(Lydia Lunch)がこの曲をカバーしてからでしょうか。1981年にエルヴィス・コステロ(Elvis Costello)、1982年にはアソシエイツ(Associates)がカバーしています。
その後は、クリスチャン・デス(Christian Death)、セルジュ・ゲンスブール(Serge Gainsbourg)、サラ・マクラクラン(Sarah McLachlan)、シネイド・オコナー(Sinéad O'Connor)、マリアンヌ・フェイスフル(Marianne Faithfull)、ビョーク(Björk)、ヘザー・ノヴァ(Heather Nova)、クロノス・クァルテット(Kronos Quartet)、サラ・ブライトマン(Sarah Brightman)、イヴァ・ビトヴァ(Iva Bittova)、そしてポーティスヘッド(Portishead)といったアーティストが『暗い日曜日』をカバー。年々カバーするアーティストが増加しているのですが、この曲をカバーするアーティストのフィールドが70年代の後半を境に全く違っているのが分かるでしょう。しかし、こうして見ると、少々イタい方がカバーしてしまう曲の代表に思えてくるから不思議です。

日本ではシャンソンという固定されたイメージが未だに強いのか、他のジャンルのアーティストがカバーすることがあまりない様で、検索してもさほど見つかりません。そんな中、大西ユカリによるカバーは、そのファンキーな解釈で好き嫌いが分かれそうですが、ボクはこの曲に強い思い入れがないせいか、カッコよくて好きです。リッキー・ネルソンの時とは反応が大違いでアレですが。
でも、この曲に関しては結局ビリー・ホリデーのカバーがあればそれでいいかなというのが正直なところ。

書き忘れていましたが、この曲"Szomorú vasárnap"はフランス語でカバーされた時に"Sombre Dimanche"というフランス語訳のタイトルになり、アメリカでカバーされた時には"Gloomy Sunday"という英語訳のタイトルになっています。

『東のエデン "Eden of the East"』に話を戻しましょう。
『東のエデン』というタイトルがジョン・スタインベック(John Steinbeck)の小説で、エリア・カザン(Elia Kazan)が監督し、ジェームズ・ディーン(James Dean)が主演した映画でもある『エデンの東 "East Of Eden"』をもじったものですから、カインとアベルの物語がこのアニメの下敷きになっている可能性があるのでは?と思ったのですが、今のところそういった節があまり感じられないので、タイトルだけ頂いちゃった可能性も強いですね。ま、これからどう展開していくか分からないので、もしかしたら今後そういった部分も見えてくるのかもしれませんが。

先にも触れた「迂闊な月曜日」というのは、『暗い日曜日』とそれをめぐる都市伝説や時代背景を踏まえて付けられたもので、片や曲を聴いて多くの人が自殺してしまう(ということが信じられた)時代、もう一方はミサイル攻撃でも人が死なず、ニートが溢れ、淡々と日常が過ぎてしまう時代、つまり、歴史は繰り返される。一度目は悲劇、二度目はファルス(喜劇)として。ということなんでしょうかね、多分。もしかすると、今は戦前なんだよとでも言いたいのでしょうか。ああ、それはないかな。

この「迂闊な月曜日」、英語圏ではどう翻訳されているのかというと、"Careless Monday"。「うかつなげつようび」という、どこかとぼけた語感が飛んでしまっているのは、仕方がないこととはいえちょっと残念な気がします。じゃあ、フランス語ではどうなっているのかというと、これが"Careless Monday"のまんまなんですね。驚きました。
『暗い日曜日』が世界に広がるきっかけが1936年のダミア(Damia)のカバーだったというのに、「迂闊な月曜日」の訳が"Careless Monday"という英語のままでは、"Sombre Dimanche"に連想が行き着く可能性がほとんど消えてしまうのではないでしょうか。第二話のタイトルが、「憂鬱な月曜日」となっているのですから、英語圏の人たちはこの回のタイトルを多分"Gloomy Monday"というタイトルで見て、そこから"Gloomy Sunday"を連想した方もいるでしょう。フランスの場合はどうだったのでしょう?タイトルがどうなっていたかまでは調べていないのですが、なんとなく、"Sombre Dimanche"を連想させるタイトルになっていなかったんじゃないでしょうか。憶測でこう言うのもなんなのですが、ちょっともったいないなと思うので、そこら辺りにも気を使った方がいいのでは、なんて思ってしまいます。

で、どうしてわざわざフランス語訳を調べたのかというと、『憂鬱な日曜日の蝶蒐集家』というところで止まっていたタイトル付けを再開した時に、「憂鬱な日曜日」の部分を「迂闊な月曜日」にしたらと思い付いた、という単純な理由からでした。ということで、やっと冒頭の本題に戻ってきました。
先に書いたように、『迂闊な月曜日の蝶蒐集家』というタイトル自体が元々ジュール・シュペルヴィエル(Jules Supervielle)の『日曜日の青年 "Le Jeune Homme Du Dimanche"』をもじったものですから、横文字のタイトルはやはりフランス語にしたい、とフランス語もできないのに考えてしまったのです。で、調べた結果生まれたのが、この文章。「迂闊な月曜日」にはフランス語訳がないのか、という驚きでこの妄想が出来上がり、それは一瞬のことだったのですが、文章に落とし込むとなると何故こんなことになってしまうのでしょう。疲れました。

さて、横文字のタイトルですが、フランス語ができるでもないので、『迂闊な月曜日の蝶蒐集家』のフランス語訳はあきらめて、英題にすることにしました。こちらは簡単です。"Careless Monday"という答が既にあるのですから。ということで、蝶をテーマにしたシリーズは、

迂闊な月曜日の蝶蒐集家 - Butterfly Collector on Careless Monday

に決定しました。はい、その通り。これまでと同じくタイトルに意味なんてないのです。

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